プレイボーイとは縁を切れ! ドラマ『東京ラブストーリー』
『東京ラブストリー』
言わずと知れた大ヒット恋愛ドラマ。
1991 年の放送当時には1話もまともに見たことがなく、それ以後幾度かの再放送にも興味なく時は過ぎ、今回訳あって日本映画専門チャンネルでの一挙再放送を録画&一気視聴してみました。
これで「観た?」と聞かれても、胸を張って「観ました!」と言えます。
はい終わり。
ではなく、少しこのドラマについて書いておこうと思います。
まず登場人物を整理。
- 赤名リカ(鈴木保奈美)ー帰国子女。「ハートスポーツ」の社員。
- 永尾完治(織田裕二) ー”カンチ”。「ハートスポーツ」の社員。高校の時からさとみのことが好きだったが、リカと付き合うようになる。
- 三上健一(江口洋介 )ーカンチの高校の同級生。医大生。さとみのことが好きで付き合うが別れる。
- 関口さとみ(有森也実)ーカンチの高校の同級生。幼稚園の先生。カンチの優しさに魅かれながらも、高校の時から好きだった三上と付き合う。
- 長崎尚子(千堂あきほ)ー三上と医学部の同級生。親の決めた婚約者がいる。
- 和賀夏樹(西岡徳馬) ー「ハートスポーツ」の部長。リカと不倫関係にあったが円満に解消している。
このドラマをざっくり言うと「プレイボーイとは縁を切れ!」です。
上記の登場人物の三上以外の人々は、三上のせいで振り回されているだけです。
三上の女グセの悪さ→さとみが不安に→カンチに相談→カンチがさとみに親身になる→リカの嫉妬
この図式が延々と繰り返されます。
三上と接点のない和賀部長でさえも、リカの情緒不安定に付き合わされるのは間接的に三上せいと言えます。
三上が他の女との関係をすべて清算してさとみだけを愛していれば、さとみはカンチに頼る必要もなく、リカの情緒不安定も生じずに2組のカップルが仲良く存在できます。
では三上はさとみのことをさほど愛していないのか?と言うと全くそんなことはなく、
三上はさとみにゾッコンと言ってもいいくらいです。
なのに「いろんな女がいたらそれぞれ好きになる」というようなことを言って、医学部の同級生尚子の結婚も、映画『卒業』よろしくぶち壊そうと目論むほどです。
そんな三上との交際に疲れたさとみに別れを切り出されると、「いやだあ~!!」と叫ぶ三上には呆れるばかり。このシーンはこのドラマにおける「不可解さ」の象徴とも言えます。
古今東西、ドラマでも映画でも小説でも「説明できない感情」はごまんと描かれていますから、「不可解さ」が売りの物語もそれはそれで楽しめることも多々あります。
しかし恋愛ドラマ、特にこの『東京ラブストーリー』のように「恋愛しか」テーマがないドラマにおいて、登場人物たちが「なぜその女(男)を好きなのか」が不可解でいいわけはありません。
たとえばリカ。
なぜカンチに魅かれるのでしょうか。
言いたいことをズバズバ言うタイプの自分と違って優柔不断だから?
わがままとも言える言動でカンチを振り回すだけ振り回して、それでも好きと言ってくれるのを期待しているとしたらただのバカです。
そしてカンチ。
さとみに魅かれていながらなぜリカとの関係を続けるのか?
このドラマで最初から最後まで、カンチの心にあるのはさとみだけです。
高校の時、喫茶店でクリームソーダに添えられたさくらんぼの種を自分の目の前で出せなくて飲み込んでしまい、むせていたさとみのような女性をいいなと思うカンチ。
その思い出を、今さとみと付き合っている三上に話してしまうほどさとみから心が離れていないカンチ。
そもそもただ強引に詰め寄ってくるリカの勢いに押されて付き合うようになってしまっただけのカンチ、この男も優柔不断というよりバカです。
このように、登場人物の動機がまったくもって不可解。
不可解というより、薄っぺらくて感情移入できないと言ったほうが正しいでしょうか。
だれにも感情移入できない。
ならばいっそのことバカの極み、三上の暴走を期待したかったところですがドラマの最後で三上は尚子と結婚してしまいます。
なんなんだ、これは!?
しかも前の結婚ドタキャンに怒っているので列席しないと言っておきながら、教会に入ってくる尚子の両親。
要ります?このシーン?
蛇足の極みです。
描かなくてはならないものを描かずに、
描かなくていいものを入れ込んでくるドラマ。
そんなドラマでもヒットできた、90年代初めというバブル崩壊直前の、
日本がもっとも弛緩していた時代のドラマ。
最後に総括すると『東京ラブストーリー』はそういう時代においてだけ受容されうる、
時代を越えては残れないドラマということでしょうか。